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秋田地方裁判所 昭和29年(行)3号 判決

原告 三浦竹也

被告 国

訴訟代理人 佐俣幸二 外三名

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は秋田営林局長が明治三十三年三月二日部分林台帳より原告と被告国の共有に属する別紙目録記載の部分林の登録を刪除した処分は無効であることを確定する。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、その請求の原因として別紙目録記載の物件は国有林野法に所謂部分林であつて、原告先々代竹松は明治四十一年七月十七日前権利者木村清三郎より右部分林の権利を譲りうけ同年八月四日許可を得て部分林台帳に登録され、部分林の権利者となつたところ、右竹松の死亡により原告先代伝治がその家督相続をなし、その後同人も亦死亡したので、その結果原告が家督相続により右部分林の権利を承継取得した。しかるに秋田営林局長は明治四十三年三月二日何等の理由がないにも拘らず前記登録を部分林台帳より勝手に刪除した。よつて該刪除処分は無効というべきであるのでその無効確認を求めるため本訴請求に及んだと述べ、乙第一、二号証の成立を認めた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、その理由として秋田営林局長のなした原告主張の登録刪除行為は行政訴訟の対象となる行政処分ではない。すなわち部分林台帳は国有林野台帳規程第一条第二号によつて作成し営林局に備えつけておくものであるが、これは単に国が部分林に関する事項を明らかにするために国の内部における事務処理の便法として設けられているものにすぎず又右規程は訓示規定にすぎないものというべきであつて、このことは前記国有林野台帳規程第十六条に営林局長が台帳の登録事項に変更消滅があつたとき又は誤記を発表したときは一方的に随時訂正又は刪除の処理をなすべきことが規定されており右台帳規程には部分林権利者に訂正又は刪除の申立権を認める規定を欠いていることによつても明らかである。

従つて部分林台帳に登録することが部分林の権利の成立要件となるのでもなく又不動産登記法の登記の如き対抗要件となるのでもないのであつて部分林台帳の登録又は刪除は何ら国民の権利義務に影響を及ぼすものでもない。部分林の権利の成立要件は旧国有林野法第十九条第一項に明らかなように部分林契約であつて、該契約が私法上の契約であることは国有林野法制定前に制定された部分木仕付条例(明治十一年三月十四日内務省布達甲第四号)第一条及び大審院判例によつても明らかであるので該契約上の権利の対抗要件は立木に関する法律第一条による登記又は明認方法によるものというべきである。以上のとおりであるから本件部分林台帳の登録刪除行為は行政訴訟の対象となる行政処分には該当しないものというべきであるので本訴は不適法として却下さるべきであると述べ、本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中別紙目録記載の物件がもと造林者原告先々代竹松と被告国の共有に属する国有林野法に所謂部分林であつて、右竹松が部分林の権利者として部分林台帳に登録されていたこと、秋田営林局長が原告主張の日部分林台帳より右登録を刪除したことは何れも認めるが、右刪除行為は次の理由により適法である。すなわち、右部分林は造林者竹松との間に全部分収を終了しこれと共に右竹松より明治四十二年六月三十日附をもつて部分林返地の屈出がなされたのでこれより造林者の権利は全く消滅したから前記の如く秋田営林局長は登録を刪除したのであつて原告主張の如く勝手に刪除したものではない。よつて原告の本訴請求は失当であると述べ、立証として乙第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証を提出した。

理由

本訴は秋田営林局長のなした部分林台帳よりの登録刪除処分の無効確認を求めるというのであるが、右刪除処分当時施行及び現行の国有林野法、国有林野台帳規程に照らせば、部分林台帳は部分林の適正な管理をするために所管各庁が部分林の設定変更消滅があつた場合、その他台帳に登録又は記載した事項に誤記のあつた場合にその都度、このことを所定の様式に従い正確に記録して部分林の実体を知悉するための用に供する簿冊に過ぎないというべきであるから部分林台帳の登録、訂正、刪除は単に国の内部における事務処理行為にすぎず、これによつて部分林の権利者の権利を左右する如き法律上の効果を生ずるものではないと解すべきである。果してそうであるとすれば、かゝる刪除行為は訴訟の対象とはなりえないものというべきであるから本訴は不適法として却下するのほかはない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小嶋弥作 小友未知 駿河哲男)

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